黄昏の特等席
「なぜ急にそんなことを?」

 グレイスが思っていても、彼はそう思っていないので、話はまだ続く。

「だって・・・・・・」

 グレイスはエメラルドのことがただ気になっただけだと言った。
 それを聞いた本人は嬉しそうな顔になり、それがますますグレイスを苦しめている。

「それより紅茶でも飲まない?」

 ずっと外を歩き続けていたから、正直喉が渇いている。

「そうだな」
「今日は何にする?」
「昨日飲んだものにするか」

 場所移動をして、グレイスが淹れた紅茶をエメラルドは美味しそうに飲んでいる。自分自身も飲むが、いつもの美味しさが感じられない。
 今日もエメラルドは誰かと一緒にいた。しかもその人物は自分以外の女。その人は誰なのか、何の話をしていたのか、内心かなり気になっている。
 本人に質問をすればあっさりと教えてくれるかもしれないが、それを知ることが嫌で、質問することを避けている。

「何を悩んでいるんだ?」

 顔を上げると、エメラルドは空になったティーカップを置き、グレイスを見据えている。

「な、何も・・・・・・」
「何もない、ね・・・・・・」

 それを聞いたエメラルドはこれっぽっちも信じていないようだ。

「この紅茶は君が好きなものでもある。いつもだったら喜んで飲んでいるのに、一口飲んだだけでティーカップさえ触れていない」
「それは・・・・・・」
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