黄昏の特等席
 紅茶を少し冷ますためだと言ったところで、彼に通用しないことなので、口を噤んだ。

「あの・・・・・・」
「悩みがあるのなら聞く」

 グレイスがはぐらかそうとしても、エメラルドは余計に気になり、本当のことを言葉にするまで、それは続くだろう。

「・・・・・・さっきまで、下の階にいたよね?」
「ああ・・・・・・」

 グレイスは重い口を開き、エメラルドが知らない女といたことを知っていることを伝えた。

「その人と一緒にいたんでしょ?」
「いたな」

 否定されないとわかっていても、否定してほしかった。
 ただの好奇心で気になっていたことを声を震わせながら言うと、向かいの席に座っていたエメラルドは隣に来た。

「好奇心・・・・・・。だったら、どうしてそんな半泣き状態なんだ?」
「近寄らないで・・・・・・」

 知らない香りがする彼に近づかれると、さらに泣きたくなる。
 距離を置こうとしても、エメラルドは近づいてグレイスを離れられないようにしてくるので、逃げ場を失った。

「何なの? 私に告白しておいて、他の人に走ったの?」

 知らない香りはする、自分がいないところで他の人と楽しそうに喋っている。そのことについてエメラルドはどのように説明をしてくるのか、耳を塞ぎたくなる。

「聞きたくない・・・・・・」
「いいから聞きなさい」
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