黄昏の特等席
 嫌なことばかり考えているグレイスはエメラルドがそのことを告げてくると思い込んでいる。

「広い屋敷で迷っていたから、彼女を案内していた。それと・・・・・・」

 エメラルドはポケットから小さな小瓶を取り出して、香りが強くなった。

「・・・・・・何?」
「ティータイムにちょうどいいと思って、これも持ってきたんだ。菓子と一緒にな」

 それはエッセンスで、生菓子や焼き菓子の香味づけに使われるもの。
 別の女の香りでないことがわかり、エメラルドの紛らわしい行動にグレイスは脱力した。

「まさか妬いてくれるとはな」
「妬いてなんかいない」

 悔しさを滲ませながら言うと、エメラルドは静かに笑って、髪を撫でてきた。子どもをあやすように撫でられ、それ以上エメラルドに何も言うことができず、しばらくはされるがままになった。

「あなたなんて好きじゃない」
「気にしない」

 グレイスがエメラルドを嫌っていても、彼はそんなことお構いなしだ。
 何を言おうと、何をしようと、どんな気持ちであろうと、結末が変わることはないのだから。

「君が私を嫌ったところで、どうすることもできないよ」

 本気で嫌っていたとしたら、嫉妬なんてするはずがないことを加えられ、グレイスは言い返すことができなかった。

「嬉しいよ」
「妬いていなーー」
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