黄昏の特等席
 ヴァネッサは一人部屋で色鮮やかなマカロンを睨みつけている。数種類ある中からマカロンを頬張る。
 半分食べているとドアノブが揺れ、一人の男ーーブライスが入ってきた。

「ご機嫌斜めか?」
「当たり前。誰のせいだと思っているのよ!」

 ブライスは彼女を宥めながら、テーブルにケーキの箱を置いた。その中に入っているものはブルーベリーチーズケーキとティラミス。
 どれもヴァネッサが食べるもので、目の前にいるブライスに決して譲らない。

「そのケーキを一番に食べたかったのに・・・・・・」
「そう怒るな・・・・・・」

 この店のケーキは人気なので、常に行列ができている。
 そのことを説明しても、ヴァネッサは知らん顔をしていて、ミントティーを飲んでいる。

「ケーキ、食べるか?」
「いただくわ」

 箱から出したブルーベリーチーズケーキは大粒のブルーベリーをたくさん使っていて、クリームチーズのコクや甘酸っぱさや爽やかな香りを楽しむことができる。
 しかし、苛立っているヴァネッサにはそれらを楽しむことも感じることもできない。ただひたすら黙って食べているヴァネッサから視線を外し、ブライスは窓の外を眺めている。

「・・・・・・何かあるの? 外ばかり見て」
「何も・・・・・・」

 視線を外そうとしないブライスを見て、ヴァネッサは怒る。

「退屈だ・・・・・・」
「だったら、紅茶を淹れてよ!」
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