黄昏の特等席
 そこにいたのは派手なドレスに、高いヒールの靴を履いている女。

「ヴァネッサ様?」

 いたのはヴァネッサだけではなかった。彼女から少し離れたところにメイドがいた。
 ヴァネッサはメイドに小声で何かを話していて、それを聞いた彼女はグレイスを通り過ぎ、どこかへ行ってしまった。
 重苦しい空気を感じていると、ヴァネッサは一歩前に出て、グレイスとの距離を縮めた。

「お久しぶりね。まさか、こんなところであなたに会えるとは思わなかったわ」
「あなたは・・・・・・」

 グレイスが唇を震わせていると、それを見たヴァネッサは不気味な笑みを浮かべた。

「・・・・・・何ですか?」
「あたしのこと、わからないかしら?」

 今日が初めてではない。もっと昔に会ったことがあることを言われ、グレイスが思い出したくない記憶の蓋が開けられる。

「わかりやすく言うわ。あたしに襲われて、クルエル様に拾われて、随分いい思いをしたでしょう?」
「あなた・・・・・・・あのときの・・・・・・・」

 グレイスを刃物で襲ってきたフードを被った女ーーヴァネッサ=エアリーが自分の目の前に立っている。
 ヴァネッサがクルエルと繋がっていたなんて、グレイスは信じられずにいる。

「クルエル様を傷つけるなんて、どういうつもりかしら?」
「それは・・・・・・」

 グレイスが話すことを彼女は遮り、深い溜息を吐いた。

「どこにいるのかわからなかったから、捜すのがとても大変だったわ・・・・・・」
「あなたは・・・・・・ずっと私を捜し続けていたのですか?」
「ええ。その通りよ」
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