黄昏の特等席
 ヴァネッサはあっさりと肯定して、その後にクルエルの命令であることを強調した。

「昔、女性ばかりを狙って、殺し続けたのは・・・・・・」
「あら、今頃気づいたの? 全部クルエル様のためにやったことよ!」

 愉快に笑い声を上げるヴァネッサに、グレイスは背筋に寒気が走った。

「酷い!!」
「痛っ!」

 怒りでヴァネッサを突き飛ばすと、彼女は壁にぶつかり、グレイスを睨みつける。

「なんてことをしたのよ! あなた達のせいで今までどれだけ罪のない人達が傷ついたと思っているの!?」
「邪魔だから殺しただけじゃない。彼だってそれを望んでいたのよ?」

 クルエルが殺すように命じてきたので、ヴァネッサはそれに従っていた。
 グレイスが罵倒しても、ヴァネッサは開き直っていて、何の言葉も届かない。

「とにかくあなたはもう終わりよ」
「何を・・・・・・」
「暴行した上に脱獄までしているのよ。ただで済むなんて思わないことね!」

 ドアが開いて靴音が響いているので、グレイスは咄嗟に彼女から離れ、目を閉じて、心の中で一人の男の名前を呼び続ける。
 気が緩んでいるヴァネッサはやってきた者へ近づき、グレイスがいることを報告している。

「待っていたわ」
「ああ」

 その声は屋敷の主なので、グレイスは安堵の溜息を吐く。自分の話を聞いてくれる人物が来たので、彼の顔を見るために歩み寄った。
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