黄昏の特等席
 全くわからないと言いたげにする彼を見て、グレイスは血が出るくらい、下唇をぎゅっと噛んでいる。

「騙していたのは誰かよくわかっているだろう?」

 いつもグレイスに向けられる笑顔がなく、その笑顔はヴァネッサに向けられている。

「あたしが何を欲しがっているのか、もう教えたでしょう?」

 いつまでも待たされるのはじれったいので、ヴァネッサはブライスの服の裾を引っ張っている。

「望みのものは・・・・・・」

 再びブライスがグレイスを見下ろし、逃がさないように腕を掴んだ。

「痛っ!」
「この女が隠し持っている」

 それを聞いたグレイスは驚愕の眼差しをブライスに向け、ヴァネッサは目の前に手を出した。

「出して」
「な、何を・・・・・・?」

 何も持っていないのに、彼女はグレイスから何をもらおうとしているのか。

「持っているのよね? アクアマリンのペンダント」
「っ!」

 それを聞いて、グレイスはアクアマリンのペンダントについて思い出した。

「グレイスお嬢様、これを」
「何ですか?」
  
 ミルドレッドは自分の手の中にあるものをグレイスに渡した。

「可愛い!」
「ふふっ、お気に召していただいて光栄です」

 彼女から受け取ったものはアクアマリンのペンダント。
 屋敷から出て行く前にミルドレッドがグレイスの心を落ち着かせるため、内緒で用意したものだ。

「無事に抜け出しましょうね」
「はい!」

 しかし、グレイスとミルドレッドは無事に抜け出すことができず、グレイスはクルエルに捕まってしまった。
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