黄昏の特等席
 エメラルドに顔を向けると、まっすぐな視線がグレイスに向けられている。

「大丈夫か?」
「大丈夫・・・・・・」
「さっきまで、何を考えていた?」

 何も考えていないことを言ったところで、エメラルドは絶対に信じないだろう。
 頭であれこれ考えていると、頭上から声をかけられる。

「誰かといても、何かを考えずにはいられないか?」
「いえ、そうではないよ・・・・・・」

 弱々しい声を出すグレイスの髪を耳にかけながら、エメラルドは話を続ける。

「考えるなら、私のことを考えなさい」
「無理」

 グレイスが即答しても、エメラルドは気にせず言い放つ。

「私しか考えられないようにしてあげるとしよう」

 真顔で仕事をするように言うと、彼は笑いを堪えながら、奥へ移動した。
 エメラルドは本当によく笑う。グレイスは彼を見ていると、呆れることが多いが、自然に笑うこともある。
 彼は昔からあんな感じなのだろうか。気になるものの、本人にそれを確認しようとはしなかった。

「仕事しないと・・・・・・」

 グレイスは風が吹く窓の外を見つめてから、仕事に取りかかる。
 窓の外を見ると、冬はやはり時間の流れがあっという間だと感じた。夏だったら、十九時になっても外は明るいのに、とっくに夏を過ぎて、十七時には外が暗くなっている。
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