黄昏の特等席
隠していたこと
「アクアマリンは?」
「そ、それが・・・・・・」
「どこへ行ったんだ?」

 メイドが困った顔をしているので、ブライスはまた屋敷を抜け出したのだと察して、行方不明の少女を捜しに行った。
 少女を屋敷に住まわせるようになってから、まだ日が浅い。その間に何度も屋敷を抜け出して、使用人達に見つからないようにどこかへ隠れていた。
 ブライスは少女が決まった時間によく行く場所を知っているので、何の迷いもなく、そこへ向かった。

「・・・・・・やっぱりな」

 少女は高台公園の柵にしがみついて、夕日を眺めている。
 ブライスは気づかれないように背後に回り、振り返る前に片手で両目を覆う。

「きゃっ!」
「またメイド達を撒いたんだな」

 驚いたのは一瞬で、すぐに力を抜いて返事をした。

「部下達にいじめられるから、こんな風に逃げ出すのか?」
「いじめられてなんかいない・・・・・・」

 グレイスをいじめる者はあの屋敷におらず、誰もが優しくしてくれる。
 だから余計に戸惑いを隠すことができずにいる。以前いた場所のようにある日突然、豹変したらと思うと不安になる。

「何も心配することなんてない。それに何かしたくなったら、私に甘えろ」
「・・・・・・甘える?」
「そうだ」
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