黄昏の特等席
 否定をする度にエメラルドが謝るので、グレイスはさらに焦る。

「・・・・・・もしかして、楽しんでいる?」
「ふふっ・・・・・・」

 にんまりと笑うエメラルドを見て、グレイスは頭を振って、溜息を零す。
 一歩後ろに下がると、両肩に大きな手が置かれた。さっきまで正面にいたエメラルドはグレイスの真後ろにいた。

「溜息を零すと、幸せが逃げてしまうだろう?」
「・・・・・・あなたのせいよ」

 彼はまたグレイスを抱きしめている。今度はさっきと違って、壊れないように抱きしめている感じだ。

「はぁ、もういい・・・・・・」
「降参か?」
「あなたのことをブライス様に報告します」

 そう告げると、エメラルドが背中に全身を預けてくる。酷いことばかり言うグレイスに軽く仕返しをしているらしい。

「君は・・・・・・彼のことが好きか?」
「ええ。大好きよ」

 初めて会ったときはこんなにも彼のことを好きになるなんて、思いもしなかったくらいに。

「だったら、私も頑張らないとな」
「何を頑張る気?」

 エメラルドはグレイスを抱きしめたまま、髪にキスをした。
 顔を強張らせるグレイスを放っといて、髪を指に絡ませていると、真っ赤になっている耳を発見したので、彼はそれに噛みついた。
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