黄昏の特等席
「それにしても・・・・・・」

 エメラルドはしっかりとグレイスの腰を抱きしめる。

「こんな夜更けにまで掃除か・・・・・・」
「いえ、それは・・・・・・」

 部屋でティーカップを割ってしまったことを話した。
 すると、エメラルドはグレイスの手をじっと見つめている。

「・・・・・・何?」
「これはそのときの怪我なんだな?」
「あ・・・・・・」

 彼はしっかりとグレイスが怪我をしたところを見つけた。
 何を思ったのか、エメラルドはグレイスの指を舐めた。悲鳴を上げて手を引っ込めようと力を入れても、彼はそれ以上に力を入れる。

「震えているな」
「だ、だって・・・・・・」

 やめるように言っても、これは仕返しであることを彼は告げた。

「私・・・・・・何か悪いことをした?」

 仕返しをされるようなことは何もしていない。
 そう考えるグレイスに、エメラルドは近づいて、後頭部に手を回しながら小さな耳に囁く。

「私が眠っているときにしか名前を呼んでくれなかった」

 主の名前は何度も呼ぶのに、エメラルドの名前は今まで一度も呼ばなかった。
 そのことに彼はずっと不満を抱いていたのだ。

「いつ呼んでくれるのか待っていても、君はなかなか呼んでくれない・・・・・・」
「それは・・・・・・」
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