黄昏の特等席
 やっと呼んでくれたと思ったら、それはエメラルドが眠っているとき。
 だから、この仕返しは可愛らしいことを主張してきた。

「それに、傷の手当ても含めてな・・・・・・」

 彼に手当てをしてもらうことを求めていない。

「気持ちだけで良い・・・・・・」
「気持ち良いのか?」
「違う!」

 変な聞き違いをしたので、グレイスは顔を真っ赤にして、強く否定をする。
 本人は落ち込んでいるように見せるものの、実際はこれっぽっちも傷ついていない。

「言ってくれたら、私がやるのに・・・・・・」
「壊したのは私だから・・・・・・」

 自分のミスだから、自分が片づける。
 それに、こんな夜遅い時間に起きているとは思っていなかった。

「ね・・・・・・」

 エメラルドに話しかけても、彼は何も言ってくれない。
 声が小さかったのかもしれないので、もう少し大きな声で呼びかける。

「あの!」

 顔を見て話しかけても、エメラルドの表情は変わらない上に声すら出そうとしない。
 数秒間、エメラルドを見続けてから、グレイスはようやく気づいた。

「・・・・・・エメラルド」
「どうした? アクア」

 やっぱり名前を呼ばなかったから、彼は何の反応も示してくれなかった。

「子どもみたいな真似をしないでよ」
「だったら、名前を呼んだら済む話だ」
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