黄昏の特等席
「動けないな・・・・・・」
「力を抜けばいいだけだよ」
「無理・・・・・・」

 頑張って部屋に戻るように腕を引っ張りながら言っても、目の前の男は動く気が全くない。
 こんなところで寝ていては風邪を引くのは目に見えている。

「私は眠いの・・・・・・」
「だったら、ここで寝なさい」

 笑うことができない冗談は言わないでもらいたい。
 どんなに暴れてもエメラルドの力は緩まない。それでもグレイスは彼から離れようと必死になっている。

「二人きりだから、誰にも見られることはない」
「私は見られる心配なんてしていない」
「そうか? だったら・・・・・・」

 くるりと回ったことに驚いて上を見ると、エメラルドがグレイスを見下ろしている。

「これでますます逃げられなくなっただろう?」
「信じられない・・・・・・」

 二人で眠るにはとても狭いソファに横たわっている。
 グレイスが腕で自分の両目を覆っていると、エメラルドが腹に顔を埋めている。

「や、やめて・・・・・・」
「嫌だ」
「やめてよ・・・・・・」

 身を捩れば捩るほど、エメラルドも同じように動くので、余計に自分を追いつめることとなった。

「どこにも行かせない」
「この、意地悪・・・・・・」

 抵抗しながら言い返すグレイスに、エメラルドは礼を言ってから、グレイスの手を握りしめた。
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