黄昏の特等席
動物の話
　客人として迎えられたグレイスがクルエルのところに住むようになって、数週間も経過した。
　いつになったら家に帰してもらうことができるのか。何度同じ質問を繰り返しても、彼はグレイスが求める返事はしてくれなかった。

「あの・・・・・・グレイスお嬢様？」

　声をかけてきたのはメイドとして働くミルドレッド。グレイスの世話係である彼女は一緒にいる時間が長く、一番仲が良い。
　いつの間にかテーブルの上には彼女が淹れてくれたアールグレイのストレートティーと砂糖が入っていない生クリームが添えられているザッハトルテが置かれている。

「何でもないです・・・・・・」
「そうですか？」
「はい」

　ザッハトルテはこってりとした濃厚な味わいのあり、世界各国で愛され続けている人気のあるチョコレートケーキ。
　ティーカップに手を伸ばした。ミルドレッドが淹れてくれる紅茶は美味しくて、とても好き。

「美味しい・・・・・・」
「良かった！」

　声も表情も嬉々としていて、綺麗な花が咲いたような笑顔になっている。
　
「ミルドレッドさん」
「はい。何でしょうか？」

　ティーカップを置いて、ザッハトルテに視線を向ける。

「これ、店で買ったものですか？」
「ええ、そうです」
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