黄昏の特等席
 着いた先は用意してくれた自分の部屋で、グレイスはドアとエメラルドの間に滑り込む。

「・・・・・・入っても、菓子とかないの」
「そういうものは求めていない」

 グレイスをきちんと眠らせることがエメラルドの目的。
 エメラルドはドアの前で立ち塞がっているグレイスを肩に担ぎ、担がれた本人は足を上下に動かす。
 どんなに暴れても無駄で、彼の足がようやく止まり、グレイスはベッドに寝かされ、エメラルドはベッドの横に椅子を置いて、そこに座った。

「そこなんだ・・・・・・」
「ベッドの上が良かったか? それなら・・・・・・」

 布団を捲って入ろうとするので、入らないように言い放った。

「別の日にするとしよう」
「しなくていいから・・・・・・」

 天井を見上げてから座ったままのエメラルドを見ると、彼は毛布と布団を引っ張り上げ、丁寧にかけてくれた。

「私が寝るまで座っているの?」
「そうだよ」

 エメラルドはグレイスの手を包み込み、少しだけ握り返した。

「寝顔、あまり見ないで・・・・・・」

 エメラルドに寝顔を見られたことはある。
 そのときは何も言っていなかったものの、グレイスは夢を見ることがあるので、寝顔を見られた上、寝言まで聞かれたら、恥ずかしさが倍増する。

「君の寝顔を見ていると、安心するんだ」
「あ、安心?」
「ああ」

 片手で包まれていた手は気づけば、両手で包み込まれている。
 互いの顔を無言で見つめていると、大きな手が目に覆い被さってきた。

「目を開けたまま眠る気か?」
「そんなことしない・・・・・・」

 目を閉じると、前髪をそっと撫でられた。その心地良さを感じながら、眠りに落ちた。
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