黄昏の特等席
「おっと」
「ん?」
「忘れるところだった」

 グレイスの額に目覚めのキスをして、頬を撫でている。

「おやすみ」
「おはようの意味じゃないの?」

 口を手で隠しながら彼を見上げると、僅かに目を見開いてから、頬にもキスをしようとしたので、抵抗した。

「しなくていい」
「なぜ抵抗するんだ?」

 わかっていることをいちいち質問しないでほしい。

「強請ってくれたんじゃなかったのか?」
「強請ってなんかいない」

 余計なことを言ってしまったので、グレイスは後悔した。

「アクア、眠らないのか?」
「時間は・・・・・・」

 いつもの起床時間より早起きしたので、もう少しだけ睡眠することが可能だ。

「もう少し眠ろう・・・・・・」
「私はいい」

 よく眠ることができたので、起きることにした。
 動こうとすると、グレイスを抱きしめている男は動かないように注意をした。

「本を読みたいの・・・・・・」
「電気をつけられては困る」
「水が欲しい・・・・・・」

 だったら水を飲もうとすると、彼はほんの少しだけ腕の力を緩めてくれた。
 水差しとグラスを手に取り、少量の水を注いで、口に含んだ。それをエメラルドは眉を曲げて見ている。

「どうかした?」
「それは飲んだことになるのか?」
「なるよ」

 少量の水でも、喉を潤すことができたのだから、満足している。
< 52 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop