黄昏の特等席
「ねぇ・・・・・・」
「ん?」
「どうしてそんなに機嫌が良いの?」

 エメラルドは朝からずっと機嫌良く、笑みを浮かべながら仕事をしている。

「君の無防備な寝顔を思い出したら、ついな・・・・・・」
「忘れて・・・・・・」

 今朝、グレイスが起きたときにはエメラルドに寝顔をじっくりと見られた挙句、涎まで拭われてしまった。
 恥ずかしくなったグレイスは穴に入る代わりに、布団の中に隠れていた。

「さっさと忘れて・・・・・・」
「私の服の袖にも垂らしていたのに?」
「そ、それは・・・・・・」

 それに加えて、エメラルドの服をティッシュと間違えて、口の周りを拭いてしまっていた。

「さて、次は掃除だな」
「ゴミが落ちている・・・・・・」

 机の上に落ちている白いゴミをゴミ箱に捨てた。
 小さなはたきや雑巾などを取りに行こうとしたとき、エメラルドは書架の本を左から右へ見ている。声をかけようか迷って、結局かけずに清掃道具が置いてあるところに向かった。
 数十秒経っただけなのに、エメラルドの姿が見えない。
 ひょっとしたら、またメイドから紅茶や菓子を分けてもらっているのかもしれない。彼がそうしている姿を頭に思い浮かべて、苛立ちが募った。

「ちょっと嫌・・・・・・」

 理由は自分でもわからない。ただ考えただけなのに、目つきが鋭くなっている。
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