黄昏の特等席
「何を嫌がっているんだ?」

 くるりと振り返ると、エメラルドが立っていたので、驚いて声を上げそうになった。
 心臓に悪いので、背後から声をかけないでほしいことを頼んだ。

「そんなに怯えることはない」
「どうして?」
「『純白』の私がついている」
 
 以前にやっていた心理テストのことだとわかり、グレイスは訂正する。

「『純白の守護者』だからね」
「どっちであろうと構わない」

 エメラルドが一番怪しいように思えてしまう。

「あなたは私を傷つけない?」
「もちろんだ。傷つけると思っていたのか?」
「・・・・・・いいえ」

 グレイスが目を瞑った瞬間、耳に息を吹きかけられ、体温が一気に下がった。

「・・・・・・そうね。あなたは私を傷つけない」
「そんな風に言ってくれて嬉しいよ。アクア」

 息を吹きかけられた耳を塞いだまま、話を続ける。

「だけど、しなくていいことをするよね。さっきみたいな」
「楽しかっただろう?」
「楽しくないから」

 もう片方の耳にも悪戯をしようとしているエメラルドの顔を押し退けて、グレイスは机の掃除からスタートした。
 掃除を始める前にエメラルドがいなかったのはグレイスの予想通り、紅茶と菓子をもらいに行っていたことを知ったのは掃除を終えたときだった。
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