黄昏の特等席
知らなかったこと
　エメラルドはグレイスに一人の人物について、話を聞かせていた。

「嘘・・・・・・」
「本当だ」
「そんなこと知らなかった・・・・・・」

　グレイスが知らなかった女が屋敷にいる。彼女の名前はヴァネッサ＝エアリー。主が前から彼女を屋敷に連れてきていたらしい。
　ヴァネッサと主が出会ったのは、街で彼女が馬車に乗っていたとき、子どもとぶつかりそうになって、驚いた馬が激しく暴れた。彼女は怪我を負わされて、そこに居合わせていた主が助けたことがきっかけだった。

「そんなに・・・・・・ひどい怪我なの？」
「骨折と打撲・・・・・・だったな」

　怪我を治している間に使用人達とも仲良くなり、彼女は「お嬢様」としての地位を確立しつつある。
　主のことを気に入って、彼も自分をもっと気に入ってもらうためにここに居座り続けている。

「彼女は何をして、気に入られようと？」
「さあ？」

　そこまで詳しくは知らないらしく、彼はそれ以上何も言わなかった。

「私は見たことがない・・・・・・」
「会ってどうするんだ？」
「会わないよ。ただ、気になっただけ・・・・・・」

　主がヴァネッサのどういうところを気に入ったのか、それが気になっている。
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