黄昏の特等席
 顔を下に向けたとき、エメラルドの手が僅かに震えている。
 彼が笑っているところを見たくないので、顔を背けていると、頬に彼の指先が触れた。

「アクア・・・・・・」

 名前を呼ばれて目を閉じると、今度は両手で触れてきて、左右に伸ばされた。
 腹を抱えながら、大笑いしている彼を怒っても、目を指で拭って、咳き込みながら笑っている。

「顔が大きくなる!」

 グレイスは自分の頬を元に戻そうと必死なのに、エメラルドはまた頬に触れようとしてくる。その手を払って、先程よりエメラルドから離れる。
 エメラルドが大嫌いであることを言おうとすると、グレイスの口を手で塞いできた。

「んぐっ!」
「本当は私のことが大好きなんだな。アクアは」

 どんなに首を激しく振っても、彼は一人で納得して、機嫌が良くなっている。
 しかし、グレイスは機嫌が悪くなり、未だに塞がれている手を剥がそうとしている。その後、エメラルドが手の力を抜いたので、ようやく息を吸うことができた。
 息を整えていると、エメラルドは自分の手を見せてきた。グレイスが見ると、そこには涎がついている。
 エメラルドに視線を戻すと、彼はハンカチで手を拭いている。

「何か言うことは?」
「すみません・・・・・・」
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