黄昏の特等席
 エメラルドは真っ赤になったグレイスの頬を両手で引き寄せた。
 グレイスは彼の手首を掴んだまま、ぎゅっと目を閉じている。エメラルドの視線を感じていると、耳を甘噛みされた。
 悲鳴を上げながら後退ると、やった本人は悪戯が成功して喜んでいる。反応が良かったから、エメラルドはグレイスを許すことにした。
 悔しそうに睨みつけているグレイスに同じことをしてもいいことを言うと、さらに目を細めた。

「しないから」
「それじゃあ、今度するのか?」
「いつになってもしません」

 強く噛まれていたら、もっと怒ることができたのに、恥ずかしさのあまり、説教する気にならなかった。
 グレイスがヴァネッサを初めて見たのは五日後だった。
 図書室から出て行って、一人でぐるりと散歩をしていると、客室から楽しそうな声が響き渡り、向かいの窓からそっと覗いた。

「あの人がヴァネッサ・・・・・・」

 複数の使用人達に囲まれて、お茶会を開いている。角度を変えながら見ても、ヴァネッサの顔はよく見えない。
 主はいなかったものの、彼女の周りにいる人達も楽しそうにはしゃいでいる。
 グレイスはすぐに図書室に戻って、気分転換にこれから読む本を探すことにした。
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