黄昏の特等席
 図書室の中に入り、そのまま書架の間を歩いていると、図書室の静けさに足を止めた。いつもだったらエメラルドがそばにいるので、今のような静けさではない。
 彼だって一人でいるときや自分以外の人といるときだってある。全ての時間をグレイスに費やすことなんてない。

「エメラルド、どこにいるのかな・・・・・・」
「ここだが?」
「やっ!」

 驚いて振り返ると、エメラルドがグレイスから少し離れたところに立っている。
 後ろに下がろうとしたときに書架の角に足を引っかけて躓き、そのまま倒れそうになった。そうなる前にエメラルドがグレイスの手を引いてくれたおかげで、痛みを感じることはなかった。

「危ないところだったな・・・・・・」
「本当に・・・・・・」

 助けてくれたことに対して礼を言って彼から離れようとしても、グレイスはエメラルドに抱きしめられたまま。

「何か話したいことがあるんじゃないのか?」
「ううん・・・・・・」

 グレイスは小さく首を横に振って、否定をした。

「何もない・・・・・・」
「そうは見えないな」

 エメラルドに用事があったのではない。いつの間にか彼のことを考えていただけだった。

「いつもより暗い顔をしているが?」
「昔からだよ」
「何か不安なことでもあるか?」

 心配するエメラルドに不安がないことを伝えても、彼は疑っている。
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