黄昏の特等席
 あんまり怯えられると、いじめたくなってしまう。
 エメラルドはその感情を抑えて、グレイスから遠ざかろうとした。

「どこに行くの?」

 軽く食べられるものを持ってこようとしているので、自分が行くことを言うと、大人しく待つように言われた。

「で、でも、上司にそんなことを・・・・・・」
「おっと」

 急に口を塞がれ、何事かと見上げると、彼は自分を目を細めたまま見下ろしている。
 エメラルドはグレイスにそういう言い方をされることを嫌っている。
 間違ってはいないものの、仕事をしていないときにまでそんな風に呼ばれることを好んでいない。どうせなら、グレイスにきちんと名前で呼ばれたい。

「君は私がいないところで名前を呼ぶな」
「んんっ・・・・・・」

 彼が言っていることは間違っていないので、グレイスは首を横に振ることができなかった。
 塞がれていた彼の手が離れて、拳で口元を拭った。

「たまには私の名前を呼んでくれないか?」

 なかなか名前を呼んでくれないので、エメラルドは不満を抱いている。

「あなたの名前・・・・・・?」
「そうだ。君に呼んでほしい。アクア」

 名前を呼ぶことは難しくないのに、呼ぶ前から頬が熱くなる。
 互いの顔を見合わせて、エメラルドはグレイスが口を開くことを待っている。
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