黄昏の特等席
「アクア、何か必要なものはあるのか?」
「はい?」

 エメラルドが用意してくれた軽食を食べ終わった直後にエメラルドに質問された。
 あまりにも唐突だったので、グレイスは困惑した。

「どうなんだ?」
「ないよ。どうして?」

 前日にグレイスの部屋へ行ったとき、ものが少なくて、部屋を与えたばかりの頃とほとんど変わっていなかったから。
 必要なものはきちんとあるので今のところ、必ず買わなくてはならないものはない。

「・・・・・・外には全然出ていないのか?」
「そんなことないよ」

 たまに二十分かけて、近くを散歩をすることがある。
 しかし買い物どころかウィンドーショッピングすら、全然していなかった。

「・・・・・・退屈にならないのか?」
「そういうときもあるよ」

 だけど、寒さを我慢して街まで買い物をする気にはならない。図書室に行けば、数多くの本が置いてあるのだから、何日でも本を呼んで暇を潰すことができる。

「欲しいもので思い出した」

 楽しいことでも思い出したのだろう。エメラルドの顔を見たら、言いたくて仕方のない顔になっている。

「どんなこと?」
「主が連れてきた女の部屋、もので溢れ返っているようだ」

 言い方からして、足の踏み場すらないのか疑いたくなる。
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