黄昏の特等席
 考えると、グレイスは一度もエメラルドの部屋を見たことがない。彼がグレイスの部屋に来ることは何度もあるので、どんな部屋なのか気になっている。
 しかし、そんなことを口にすれば、またからかわれる可能性があるため、そのことを言わなかった。
 考えてばかりいたグレイスはエメラルドが自分に近づいていることにようやく気づく。

「ち、近い!」
「おっ!」

 グレイスはエメラルドを突き飛ばし、背中を向けて真っ赤になった顔を隠す。

「私に近寄られるのは嫌か?」
「そうじゃないよ・・・・・・」

 エメラルドに近づかれると、グレイスはどうしたらいいのかわからなくなる。

「エメラルドが悪いんだから・・・・・・」
「私?」
「そうだよ」

 グレイスでなくても異性にじっと見つめられたら、何も考えられなくなる人はたくさんいる。

「そうか・・・・・・」

 ゆらりと大きな影が動き、グレイスは彼から離れようとしたときにはすでに遅かった。
 エメラルドに後ろから抱きつかれたとき、グレイスの髪がふわりと浮き上がった。

「今度から謝罪を言う代わりに、こうやって抱きつく」
「私じゃなかったら、悲鳴を上げられてしまうよ」

 彼に抱きつかれたら、相手はきっと喜んで声を上げるだろう。
 グレイスに抱きつくから、何も問題ないことを言われた。
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