黄昏の特等席
「言いにくいこと?」
「私、家に帰りたいです・・・・・・」

 会いたい人達に会うことができなくて、寂しくて仕方がない。夜一人で眠るときは涙を流した日が何日もあった。
 グレイスが求めていることを聞いて、クルエルは一言も発さなかった。

「あの・・・・・・」

 どんなに話しかけても、クルエルは視線をグレイスに向けたままだ。
 彼の様子がおかしいと思いながら、もう一度空を見ようとしたとき、クルエルに肩を強く掴まれた。

「痛っ!」

 あまりの痛みに顔を顰めても、クルエルは気にしていなかった。
 中途半端な姿勢で窓に押しつけられたので、それを正そうとしても、できなかった。

「ど、どうしたんですか!?」

 クルエルの全身が震えていて、目が合うと、それはいつもグレイスに向ける優しいものではなかった。
 まるで猛獣のようなーー鋭く光っていて、強い恐怖に襲われた。
 すぐに誰かに助けを求めようとしたとき、クルエルが先に動いていた。グレイスを抱えてベッドまで移動して、そのまま押し倒した。
 彼の行動が信じられなくて、逃げることばかり考えているグレイスは無意識に手を動かしていた。大きな乾いた音でようやく自分がしたことーークルエルを思い切り叩いたことに気づいた。
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