黄昏の特等席
 目の前の男を見ると、殴られた方向に顔を向けたまま動きを止めたので、その隙に起き上がって、部屋を抜け出して逃げた。
 我に返ったクルエルは部下にグレイスを見つけ次第、決して逃がさぬように命じていた。

「どうしよう、どうしたら・・・・・・」

 本来、人のいるところへ逃げ込むものの、相手がクルエルだから、助けを求めることができない。
 外には門番がいる上に表と裏に一人ずつ見張るように命じられているかもしれない。そう考えると、どこかで隠れているのが安全かもしれない。
 でも、クルエルが先に襲おうとしたが、グレイスは彼の頬に爪が当たったので、頬から血が出ていた。明らかに悪いのはクルエルだが、その彼がグレイスを加害者扱いする可能性が考えられる。
 ミルドレッドに助けを求めることも考えたものの、やはり一人で逃げ切るしかないと思い、できるだけ人目につかないように移動している。
 泣きそうになるのを必死に堪える。頭を低くしながら、前に進もうとすると、長い脚にぶつかり、青ざめた顔で恐る恐る見上げた。

「あ・・・・・・」
「やっと見つけた・・・・・・」

 クルエル本人に会ってしまい、慌ててその場から走り去ろうとする。

「・・・・・・逃がすと思う?」

 首根っこを掴まれても逃げようとしているグレイスを見て、クルエルは苛立っている。
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