黄昏の特等席
 どんなに抵抗しても二時間前のようにいかず、グレイスはそのままクルエルに引きずられて、部屋に押し込められた。
 グレイスが部屋から出ることができないことをクルエルが嬉しく思っていると、足音が近づいてきた。

「ミルドレッド!」
「クルエル様・・・・・・」

 いつもの彼女とは思えないくらいに険しい表情になっている。この様子だと、グレイスのことを門番もしくは別の誰かに聞いたのだろう。

「あの子のことを聞いたみたいだね」
「お嬢様をどうなさるおつもりですか?」

 グレイスが暴行を働いただけではなく、その前にクルエルが彼女に手を出そうとしていたことをミルドレッドは知っていた。
 それはクルエルがグレイスを部屋に連れて行く姿を他の使用人が目撃していて、グレイス本人から数時間前のことをドア越しで話を聞いていた。

「あの子は僕に傷をつけたんだ」
「あなたはあの子を・・・・・・奪おうとされたのですよね?」

 ミルドレッドはどう言おうか迷いながら、声を絞り出すように言った。

「そうだよ」
「どうして・・・・・・」

 あっさりと認めたクルエルを見て、ミルドレッドは唇を強く噛みしめている。

「あの子が好きだから、我慢ができなくなったんだ・・・・・・」
「・・・・・・はい?」

 眉を曲げているミルドレッドに気づかず、クルエルは話を続ける。

「せっかくここへ連れてきたのに、家を恋しがってばかりで、逃げようとするから・・・・・・」
「あの・・・・・・」

 さっき言ったことが信じられず、もう一度確認する。

「お嬢様に好意を寄せていると・・・・・・?」
「もちろん。絶対に手放したくない」

 クルエルが胸を張って宣言したことはミルドレッドに絶句させるほどのことだ。
 
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