黄昏の特等席
 グレイスはクルエルに襲われそうになってから、彼のことを怖がるようになった。
 そんなグレイスに対し、クルエルは口説いている。一回り年上に好かれるなんて信じられないので、グレイスは何度も断っている。

「はぁ・・・・・・」
「グレイスお嬢様・・・・・・」

 溜息しか吐かなくなったグレイスを見て、ミルドレッドからもすでに笑顔が消えてしまっている。
 クルエルはグレイスを家に帰す気が最初からこれっぽっちもない。どうすれば良いか、信頼できる人達と相談している。
 クルエルが何を考えているのか、ミルドレッドにも全然わからない。何度もここから出そうとしたことはあったが、クルエルの命令に従う者に見つかれば、それ以上先に行くことができなかった。

「ミルドレッドさん、三時になったら、紅茶を淹れてもらえますか?」
「かしこまりました。アッサムでよろしいですか?」
「はい、お願いします」

 考えることをやめて、ミルドレッドが退室する前に焼き菓子も欲しがったので、グレイスの食欲がなくなっていないことに安堵する。
 グレイスが好きな焼き菓子を用意することを決めたとき、クルエルと一人のメイドが普段使われていない部屋のドアを開けて、入って行ったところを見た。
 
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