黄昏の特等席
「誰かしら?」

 見たことがないメイドだったので、きっと新人なのだと思った。
 鍵をかける音がしたので、気配と足音を消して、そっと聞き耳を立てる。

「いつもご苦労様」
「いいえ~、クルエル様のため。当然のことですわ~」

 媚を売るような女の口調を聞いて、ミルドレッドは不愉快になったので、見つかる前にその場から離れようとした。

「頼りになるね」
「ありがとうございます。次は誰をターゲットにしますか~?」

 それを聞いたミルドレッドは首を傾げる。
 片足を浮かせたまま、動きが止まって、ゆっくりと振り向いた。
 
「今、考え中だから」
「それにしても、クルエル様が連れてきたお嬢様~、本当にあのとき刃物で傷をつけなくてよろしかったんですか~?」
「うん・・・・・・」

 思わず口から声が漏れそうになったので、手で口を覆う。
 今、彼女が何を言ったのか、ミルドレッドはすぐに理解ができなかった。

「そんなことをしなくていいんだ」
「そうですか~?」

 そんなことをしてしまったら、恐怖と痛みで自分のことを見てくれなくなっていただろう。
 彼女に悪役になってもらうことで、クルエルはグレイスに『命の恩人』と認識してもらうことができる。

「クルエル様は~あの子をどうしたいのですか~?」
「もちろん可愛がりたいよ」
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