黄昏の特等席
 それを聞いた女は不貞腐れてしまい、室内で歩き回っている。

「これからもですか~?」

 女として魅力が上なのは自分で、グレイスはせいぜい人形のような存在でただ、手元に置いておきたいだけ。
 そのことを信じて疑わない女はクルエルにとって、とても滑稽だった。

「わかっていることを言わないでよ」
「きゃっ!」

 クルエルに手の甲を舐められ、女はそれだけで震え上がった。彼が微笑むと、女は顔を赤くしたまま、何度も頷いた。

「でも、恐ろしいですわ~」
「何が?」
「そのためなら、お嬢様も騙してしまうのですから~」

 クルエルはあの日、グレイスがあの場所に行くことを知っていた。
 知り合いの魔法使いの力によって、グレイスの行動がわかっていたので、必然的な出会いだった。
 魔法使いは普段力を貸すことは少ないものの、かなりの額を支払ったので、彼はクルエルに協力をしてくれた。
 しかし、彼はクルエルに魔法具を少しの間だけ貸してほしいことしか言われていなかったので、クルエルが何の目的でそれを借りたのか、知らないままだった。
 グレイスを連れてきたことに成功したその後、彼に魔法具を返して、彼は姿を消した。
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