黄昏の特等席
 クルエルはグレイスのことを三年前から知っていて、そのときからずっと気になっていたのだ。
 最初に見たとき、クルエルは一人で外に散歩に出かけていた。

「早く! お母さん!」
「そんなに急がなくていいわよ。祭りはまだ始まったばかりだから」
「でも、人が多いから」

 三年前のグレイスの容姿は現在とほとんど変わっていない。
 少女が母の手を引っ張る姿は外に出たら、どこでも見ることがある。このときのクルエルはグレイスのことをどうでもいい存在だと思っていた。

「何が食べたいの?」
「全部」

 満面の笑みを浮かべながら、無茶なことを言うグレイスを見て、母はくすくすと笑っている。

「そんなに?」
「どれも美味しそうだから」
「あらあら」

 涎を出すのではないか、不安になっていると、母が一番食べたいものを娘に質問している。

「カステラがいい!」
「じゃあ、買いに行きましょうか?」
「あ! でも・・・・・・」

 家で寝ている祖母の土産も買いたいので、カステラは一番最後に買うことにした。
 そんな娘の頭を母は優しく撫でて、撫でられている本人は母に嬉しそうに抱きついている。

「じゃあ、先にホットドッグを食べない?」
「食べる! お母さん、売り切れちゃうよ」
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