黄昏の特等席
 ふと、この屋敷に住むまでのことを思い出した。
 グレイスは親しい友達に誘われたものの、ドレスを持っていなかった。仕方なく諦めようとしたとき、先に来ていた彼女がこっそりと中に入れてくれた。

「いいの? こんなことして・・・・・・」
「大丈夫よ」

 誰も見ていないか左右を見渡していると、腕を引っ張られた。

「ど、どこに?」
「ほら、こっちに来なさい!」

 連れて行かれた場所は更衣室で、そこにはドレスや化粧道具などが用意されていた。

「化粧は・・・・・・」
「私、まだ子どもだから・・・・・・」

 この頃のグレイスはまだ十三歳なので、化粧はまだ先だと思っている。

「心配ないわよ。ちょっと呼びに行くから、待っていて」
「誰を?」

 彼女は笑みを浮かべて、そのままどこかへ行ってしまった。
 数分もしない間にメイドと一緒に戻ってきて、グレイスは驚いて立ち上がった。

「じゃあ、この子をとびっきり可愛くしてね!」
「お任せください」

 どうやら詳しい事情を彼女から聞いたようだ。
< 9 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop