六本木グラスホッパー
「エージ、あれ見ろよ」
アラタが窓の外を見下ろして言った。とても立派とは言いがたいグラウンドの向こうの校門を見ると、そこに黒いスーツを着たガラの悪い男達が何人か立っていた。
「きっと唯浜会の連中だぜ。メイがいなくなって、あちこち探してるのさ。学校にも聞き込み調査に来たんだろうな」
ボスの一人娘がいなくなったのだ。唯浜会のマフィアたちが血眼になって捜索しているのは間違いない。
午後の授業が終わり、ボクとアラタが帰ろうとすると、校門の所で、一人のチンピラ風の男が生徒を捕まえて話し込んでいた。紫色のスーツの下に黒いシャツを着込み、ネクタイは締めず、金色のネックレスが首元で光っていた。猫背で、目つきが悪く、いかにも堅気じゃありません、といった若いチンピラだった。
「本当に知らねえのかよ。隠したりしたら容赦しねえぞ」
まるで脅すような口調で、チンピラは生徒に凄みをきかす。その男子生徒は顔を真っ青にして、怯えた表情で、「ほ、本当にしらないんです。」と泣きそうになりながら答えた。おそらくこのチンピラは、校門から出てくる生徒全員に取調べをしているのだろう。
「唯浜メイなら、昨日見かけたよ。」
アラタがそちらの方に近づいていって、そう言った。
その口調は堂々としたものだった。
「ああ?本当かよ、ガキ」
チンピラは鋭い目つきをアラタに向けた。
アラタは怯まずに、「ガキじゃねえよ。」と言い返した。
その隙に今まで尋問にあっていた男子生徒は逃げ出した。
「嘘じゃねえだろうな。本当にお嬢に会ったのかよ」
「会ったっていうよりは、見かけただけだよ」
ボクもアラタの横に並ぶ。
チンピラはボクとアラタの顔を交互に見た。と、いうより睨んだ。
「場所はどこだ?お嬢は誰といた?」
こっちは親切に情報提供しようというのに、このチンピラは今にも食い掛かりそうな勢いで唸るように言って、アラタに掴みかかろうとした。
アラタは構え、負けじと鋭い目つきでチンピラを睨みかえした。
その時だった。