六本木グラスホッパー
「依頼されたら確実にそれを探し出す。奴に目を付けられたら最後、逃げられねえ。それくらい腕はたしかだ」


「でも、グラスホッパーって噂じゃないの?誰も見た事がないし、公のニュースにもなっていないじゃないか」


「けれど、奴はいるんだよ。この街のどこかに潜んでる。信じるか信じないかは、お前ら次第だ」



リーダー格の顔は真剣だった。
まるで崇高な事柄について意見を述べているようだった。



「まあ厄介ごとに首を突っ込んでいるんなら気をつけることだな。この街はお前らみたいな温室育ちには危険だ」


「ご親切にどーも。だけれど、オレらはアンタたちと比べりゃ恵まれてるかもしれないが、温室で育ったことなんて一度もねえよ」



アラタはそう言って歩き出した。
ボクは、押し倒してしまった狐顔に「ごめんね。」と一言謝って、アラタの後を追った。







「グラスホッパーなんて、本当にいると思うか?」


ヤル気横丁まで帰ってきて、アラタはボクに訊いた。


「さあ。わからない」


ボクは素直に答える。



怪盗グラスホッパーは都市伝説だ。あまりにも有名な話だけれど、信憑性は低い。
ただあのストリートチルドレンたちには確信があるようだった。



「また明日な」



気がつけばアラタの家の魚屋の前まで来ていて、ボクらは別れた。




家に帰ってから、買い置きのインスタント麺で空腹を満たし、テレビゲームで時間を潰してカズナの帰りを待った。
深夜、酔っ払って帰ってきたカズナに、



「ねえ、グラスホッパーって知ってる?」



と、たずねると、



「ああ、殺し屋の?」



カズナはそう返事を返し、帰ってきたままの姿でベッドに倒れ込んで寝てしまった。




どうやら噂の伝わり方は、人によって違うらしい。




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