六本木グラスホッパー
大きな成果をあげたり、能力のある人は若くして高給を得られる時代になったわけだけど、みんながみんな、そんなビジネスチャンスをつかめるわけじゃなくて、低賃金の労働者が増え、この街は格差社会となってしまった。


景気は悪くなる一方なのに、税金は上がる一方。食べ物を買うことができない人は引ったくりや万引きといった強行に走り、恐喝、暴力、強奪といった犯罪が普通の顔をして街全体に蔓延っている。


道行く人には活気がない。瞳に輝きは失せ、曇りガラスのようなくすんだ目をしている。


ボクたち子供の社会では、お金持ちの子供はお金をいっぱいかけて勉強し、上層教育を受け、いい大学に進み、いい会社に勤めることができるけれど、そうでない子は満足な教育も受けられず、家計のために進学を諦めて低賃金の工場で働くか、そんな生活に嫌気が差してグレてしまい、成れの果てはマフィアや犯罪者だったり。どうしようもない悪循環だ。


政府は毎年景気の回復を目標に掲げているけれど、増税を続けていたら景気も回復するわけがない。


みんな諦めているんだ。
なんとかする気も失せてしまって、このまま濁った流れに身を任せるほかないと思っている。


その濁った流れを、当然ボクにはどうすることもできない。
そして、アラタにも。




「相変わらず、しけてんなあ。この街はよ」


寂れた小さな公園に自転車をとめて、ボクたちはジャングルジムに登った。ジャングルジムと古いベンチと、蛇口が錆びて回らない水飲み場しかない小さな公園だけれど、ボクたちはこの場所が好きだった。高台にあるこの公園のジャングルジムに登ると、街を一望することができる。


煙町、六本木。


中心の工業地区に巨大な煙突がそびえ立っているのが見える。


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