六本木グラスホッパー
ボクのその提案に、アラタは賛成した。ボクの方を見てニヤリと笑うと、ジャングルジムから軽やかに飛び降りて、自転車にまたがった。


「今度はオレが前になってやるよ」


闇市は五番街にあった。屋台やテントが細い道にひしめき合うように立ち並び、何故だか分からないけれど、天気が悪い日には物珍しい屋台や露店が並ぶ。

違法ドラッグに、コンピューターの違法ソフト、怪しげな医薬品や映画の海賊版。ワケのわからない機械の部品、一見ガラクタにしか見えない鉄の塊など。それらを眺めているとボクたちは楽しい気持ちになった。


駄菓子を売っている屋台でボクらはラムネを買って、飲みながら人通りの多い闇市を歩いた。

どこからか怒号にも似た叫び声が沸きあがった。
チンピラ同士の喧嘩だろう。ここでは日常茶飯事だ。


だから学校では闇市に行くことは禁止されていた。けれど、行くなと言われるほど行きたくなる。子供なんてそんなものだ。


万が一、危ない目にあってもボクらなら大丈夫。
ここはボクたちの生まれ育った町で、庭のようなものだ。逃げ道は大体把握している。



「あれ、メイじゃねえか?」


一歩先を歩くボクの肩を叩いてアラタが言った。ラムネの瓶を持った方の手で、人ごみの中を指差している。


ボクは目を凝らした。そして、人ごみの中に彼女の姿を見つけた。慣れない足取りで、しかし目はまっすぐ前を見て、すれ違う人と肩をぶつけながら足早に歩く、唯浜メイの姿を。


「何やってんだ?あいつ。」


「さあ・・・」


唯浜メイはボクやアラタと同じ学校の同級生で、他の生徒とは少々異質な存在感を常に発している生徒だ。
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