恋するリスク
病棟から一駅離れた和風居酒屋の個室で、私は相沢先生と向き合って座っていた。

個室を取り囲む木の壁は、飾り気がなく上品で、気の合う仲間と飲むなら落ち着く空間なのだろうけど。

いまは、とてつもなく居心地が悪い。

主導権を握っているのは、確実に相沢先生。

私は面接を受けに来た、就活生の気分だった。

沈黙が苦しく、私はビールをゴクリと飲む。

大好きなはずのビールは、今日はなぜだか味がない。

「わかってると思いますけど。」

突然、相沢先生が口火を切った。

「今日は、西村先生のことで話をしたくてお誘いしました。」

無言のまま小さくうなづくと、私はもう一度ビールをひと口飲んでみる。

何度味わっても、今日のビールは味が全くしないらしい。

「実は私、結構前から藤崎さんのこと、知ってました。」

「えっ・・・?」

突然の告白に意味がわからず、私は相沢先生の顔を見る。

「まあ、顔と名前が一致したのは、働きはじめてからですけど。」

自嘲するようにふふっと笑う。

「西村先生はあんな人でしょう。

浮気なんて、一人や二人じゃないんですよ。」

< 138 / 174 >

この作品をシェア

pagetop