恋するリスク
「なんですか?」

「802の八代さん、風呂で腕ケガしたって言ってたから、後で消毒してあげて。」

西村先生は右手の人差し指で、左の肘を指さした。

「お風呂でケガって・・・転倒でもしたんですか?」

足腰はしっかりしているものの、もうすぐ80才になる八代さんの顔を思い出す。

「いや。髭剃りしてて、手がすべった拍子にカミソリで切ったらしい。」

「・・・そうですか。わかりました。」

私は目を合わせずに返事をすると、そのまま消毒セットを持って八代さんの部屋へ向かった。



昼休み。

出勤時に頼んでおく仕出し弁当の注文を忘れた私は、地下1階にある購買に、パンを買いに行くことにした。

エレベーターに乗りB1のボタンを押すと、閉まりかけのドアに、大きな手が差し込まれた。

とっさに「開」のボタンを押すと、滑り込むようにして、西村先生が入ってきた。

「!!!」

「悪い。」

「・・・。」


(閉めちゃえばよかった・・・。

エレベーターに二人きりとか・・・最悪。)


斜め上から、なんとなく視線は感じるけれど。

私は無言で下を向く。

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