恋するリスク
翌日。

夕方に出勤した私は、師長に用事があったらしい佐藤くんと、ナースステーションでばったり会った。

私に気づくと、にこっと笑って会釈する。

「佐藤くん、昨日はどうもありがとう。」

昨日の今日で、なんだか緊張する私。

「いえ。また、いつでも。」

「う、うん・・・。」

甘く微笑まれた気がして、私はドキッと息を飲む。

「これから準夜ですか?」

「うん。」

「そうですか。がんばってください。」

「・・・うん。」


(「うん」しか言ってない気がする・・・。)


確実に私は動揺しているけれど、それを悟られないように、そして自分でも、動揺なんてしてないはずだと、自分自身に言い聞かせる。


(佐藤くんは・・・全くいつも通りだな。)


それが寂しいようなほっとするような、複雑な気持ちにもなるけれど。

「じゃあ」と言って佐藤くんがナースステーションを去ろうとした瞬間、入れ替わるように、西村先生がやってきた。

「おつかれさまです。」

すれ違いざま、佐藤くんが頭を下げる。

「・・・どーも。」

西村先生はそっけなく返事をすると、私の方へ視線を向けた。

「真緒。」


(・・・えっ・・・!?)


西村先生が、下の名前で私を呼んだ。

職場では、付き合っているときも、絶対に名字で呼んでいたのに。

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