恋するリスク
窺うような師長の問いかけに、誤解を生まないような言葉をつけて、佐藤くんは返事する。

「そう・・・まあ、佐藤くんなら大丈夫かな。

・・・じゃあ、お願いしようかしら。これじゃ一人で帰せないし。」

少し考える様子を見せてから、師長は佐藤くんに私を託す。

「はい。きちんと送り届けますので。大丈夫ですよ。」

「じゃあ・・・お願いね。」

そう言って師長に送り出されると、今度は肩を佐藤くんに支えてもらいながら、私はひょこひょこと歩き出す。

「・・・大丈夫ですか?」

ふらつく私に、佐藤くんが声をかける。

「うん・・・。」

ほとんど頭は回らないのに、少しだけ残っている正常な思考のせいで、このまま消えてしまいたくなる。


(恥ずかしいし・・・情けないな・・・。)


タクシーの後部座席に乗り込み、佐藤くんが行先を告げると、車はゆっくりと夜の道を走り出す。

動いていく外の景色を眺めていると、全てが夢のように感じ、私は自分自身の思考を遮ることにした。


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