恋するリスク
昼休憩の前だった。

午前中の入力を済まそうと、パソコンの画面に向かっていた私の右横で、ギシリと椅子がきしむ音がした。

見ると、相沢先生が隣の席に座り、カタカタとパソコンをいじりだした。

私はドキリとして、無駄に隣を意識する。

気にしないと思えば思うほど、私の動作はぎこちなくなり、操作しているマウスを、思わず机から落としてしまった。


(うわ!)


なんて馬鹿なことしてるんだろう・・・。

そう思って手を伸ばしかけると、私が拾うより先に、相沢先生が素早く拾って渡してくれた。

「はい、どうぞ。」

「すみません・・・。」

「いえ。」

相沢先生はにこっと笑うと、そのまま話しかけてきた。

「この前、だいぶ酔っ払ったって聞きましたけど、大丈夫でしたか?」

ドキッとする心を落ち着かせ、私はなんとか会話をつなぐ。

「はい。・・・すいません、ご心配かけて。」

「いえ。普段はほとんど酔わないからって、ほかの先生たちが言ってました。」

「ちょっとこの前は・・・隣に師長がいたから緊張しちゃって。」

苦しい言い訳をすると、相沢先生は椅子のローラーを滑らせて、私の横にピタッとくっつく。

「・・・もしかして、師長さんって、怖いんですか?」

小さな声で、こそっと尋ねる相沢先生。


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