恋するリスク
「はい。あ、そういえば柏木さん、この前の新歓いらっしゃらなかったですよね。

今度またうちで何かしますので。その時はぜひ。」

「ありがと。じゃあまたね。」

「はい。」

そう言って佐藤くんが去った気配がすると、穂乃香は休憩室のカーテンをがーっと開けた。

「ちょっと!何やってるの!」

仁王立ちの穂乃香が私をにらむ。

「だって・・・合わせる顔が、ないんだもん・・・。

あんなことしといて。」

私は小さくうずくまる。

「だからって、あんな真後ろダッシュされたら、気づくでしょう、誰だって。

あそこは、社会人として平然と挨拶すべき場面だったと思うけど。」

「う・・・条件反射っていうか。」

穂乃香に突っ込まれ、うまく反論できる言葉がない。

「わからなくはないけど。

おつかれさま、の一言でも言ってあげたら、佐藤くん、残ってる仕事もがんばれたと思うなあ。

佐藤くんは、真緒に会いたかったと思うよ。」

「・・・。」

穂乃香の想像だけれど、そうだとしたらうれしいな、と思う。単純に。

私だって・・・恥ずかしい気持ちと同じくらい、会って話したいとも思っている。

でもやっぱり。

あんな大胆なことをしてしまったんだ。

どんな顔をして会えば、いいのだろう。

私には、佐藤くんと向き合う心の準備は、まだまだ出来ていなかった。
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