恋するリスク
白衣だらけの職場に、時々現れるスーツ姿の佐藤くんは、どこか特別な存在にも見えて、後輩の女の子たちは、見かけるたびにキャーキャー言って騒いでいる。

「そんな怖い顔してたら、キレイな顔が台無しですよ。」

基本的に、MRは製薬会社の営業職だ。

いつも感じがよくて、リップサービスも満点。

「・・・いーよ、もう。台無しで。今、私やさぐれてるから。」

下を向いてぶっきらぼうに話す。

「やさぐれって・・・どうしたんですか?」

「大丈夫。佐藤くんに言って解決するようなことじゃないし。」

私が呟くと、佐藤くんは少し寂しそうな顔をする。

「そうですか・・・。

ああ、そうだ。藤崎さん、今日の食事会はいらっしゃいますか?」


(そうだ・・・。今日の夜は、菱沼製薬主催の食事会があるんだっけ・・・。)


憂鬱が、一気に加速する。

製薬会社の人たちは、たびたび食事会を開いては、医師や看護師や事務員さんたちを招き、おいしい料理でもてなしてくれる。

今日はまさにその日で、事前の確認の際、私は出席にマルをつけていた。



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