乙女たるもの恋されろ!

『その日のためにママはお仕事して頑張って貯金するから、初実も嫌だなんて言わずに学童クラブ、頑張って行こうね』


いつになるかも分からない娘の結婚式のためにずっと前から母がこつこつ私名義で毎月貯金してるのを知っている。

帝宮ホテルは子供のときに目にして以来ずっとずっと憧れの場所だった。いつかわたしだけの王子様のために、きっとここでわたしもすてきな花嫁さんになるんだって夢見てた。でもお母さん、きっとわたしはもう二度とここへ来ることはないよ--------。



転がり落ちるような勢いでフロントに下りてきたわたしに、笑顔のホテルクラークもドアマンも何事かと様子を伺ってくる。


-------早くしなきゃ。一刻も早くここを出なくちゃ。


品がないのも行儀が悪いのも分かってるのに、駆けるような速さになってしまうことをやめられない。ドアマンの待つ回転扉までが果てしなく遠い。

あと一歩。もう一歩。それまで耐えなくちゃ。

もう一歩。あと数歩で出口にたどり着こうとしていたそのとき。わたし以上の足音を立てて背後に何かが迫ってきた。振り向くより先に肩を掴まれる。感触だけで分かる。この大きな手は、男の人のものだ。



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