乙女たるもの恋されろ!

忍ちゃんのことが話題に出るときはどう自制してもつい浮かれたような口ぶりになってしまう。でも部長は「はい」と答えたわたしにいやな顔せずに応じてくれた。

「それにしたってその王子様のためにドレスくらい着てきなさいよね」
「忍ちゃんはそんなこと気にする人じゃありませんよっ」

胸を張っていうと、盛大なため息を吐かれる。

「まったく上野は男心の分からないやつよね。料理裁縫はあんなによく出来るのに、その女子力台無しだわ」
「部長はいつにも増して今日は女子力全開ですよね、うーんすてき。すてきです!」
「だから。上野にうっとりした目でそんなこと言われてもうれしくないんだってば」

そういって子犬をあしらうようにシッシと邪険に手を振った部長は会場の遥か遠くを見遣る。まるで結婚式のように会場前方に作られた高砂席と、その上に垂れ下がった『高大広海の生誕を祝う会』という幕。

ここは高大広海の一族が経営するH&Lホテルグループの中でも特に格式の高い帝宮ホテルで、色取り取りの華やかな装花で飾られたこの宴会場では、今日で16歳になった御曹司のために盛大なお誕生日会が開かれていた。


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