乙女たるもの恋されろ!

「もう人多すぎ、目に留まるどころか視界に入るのすら四苦八苦よ」

ぼやく部長の視線の先には、何重もの人垣が出来ていてその中央にいるはずである高大広海の姿は覆い隠されていた。着飾った女子たちがここぞとばかりに今フリーらしい高大にアピール合戦をしているのだろう。

「じゃあ部長も一緒に食べましょうよ。このローストビーフ、ソースが絶品ですよ!あっちにある海老と枝豆の湯葉包みも!出汁醤油がいい仕事してるんです!」
「……まったく。上野といると自分のしてることが馬鹿らしくなってくるわ」

そんなことを言いつつ、諦めたように取り皿を手にしたエリナ部長は器に盛ったローストビーフを優雅に口に運ぶ。

「あら。ほんとにおいしい」

食べる姿まできれいな部長に、遠巻きから熱い視線を送る男子たちが見えるけれど部長はそれに気付かず「おいしいわね」と花の咲くような笑顔を見せる。

エリナ部長は日仏ハーフの色白さんで女のわたしでもその細い腰に思わず抱きつきたくなっちゃうほどの美人だ。おまけに面倒見のいい姉御肌で、たぶん今もひとりきりになった私を見つけてわざわざ話しかけに来てくれたんだと思う。

なにも高大なんかを追い掛け回さなくたって、エリナ部長の美貌と性格ならいくらでもお金持ちのお坊ちゃまを手玉に取れそうなのに。

そんなことを考えていると、会場の前方で仲間の手を借りてようやく女子の人垣から出てきた高大が高砂席に座るのが見えた。係員に指示されて取り囲んでいた女子たちは渋々と言った様子で一定の距離を取る。高砂席で頬杖を付いて行儀悪く座る高大は遠目で見てもあきらかに不機嫌そうで、女子たちにうんざりという顔だった。


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