乙女たるもの恋されろ!

『さてさて。じゃあここからは高大広海くんの一番の親友、渋谷春人(シブヤハルヒト)が進行させてもらいます』

会を取り仕切っていた品のいいおじさま司会者からマイクを渡され、高大の友人がしゃべりだす。この渋谷くんもお父さんが大手食品会社の役員だとかのお坊ちゃんで、成績はイマイチだけど顔がかっこよくてセンスもいいからクラスでも派手なグループにいる人気者だ。明るくクラスのムードメーカー的な存在だけど、ノリが軽いちゃらちゃらした人に苦手意識のあるわたしはクラスメイトだけどまだ一度も口を利いたことがなかった。

『まずは広海、ハッピーバースデイ!』
『……それ、もう聞き飽きたよ』

如何にも投げやりな調子で高大が返すと、会場にどっと笑いが沸く。本人は不機嫌顔のままなのが余計に笑いを誘った。

『じゃあプレゼントはどうよ?』
『べつにいらないし』

これにも笑いが起こる。

H&Lグループの創業一族の御曹司にいまさら欲しいものなんてないのだろう。あったとしてもいくらでも都合できるお金はあるのだし。だいたい今日の誕生会だって、司会者さんも生で演奏するオーケストラのみなさんも、姿勢の綺麗な給仕さんたちも彼の母親の厚意で総動員されているのはみんなプロの職業人だ。人件費だけでも相当な金額になるはずだ。とても一介の高校生の誕生パーティーだとは思えないその豪華さに庶民のわたしは辟易するくらいだ。

『そんなこといって。なにか一個くらいあんでしょ』
『ない』
『いやあるね。欲しいものがない年頃の男なんてありえませんから』
『……欲しいものだって……?』

気だるそうに俯いていた高大が、不意に顔を上げる。


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