椿の氷
御剣さんは、何も言わない
かわりにと、何かを差し出された
これは、


「勧誘のビラ、ですか?」

「見たらわかんだろう
名前通りの動物じゃねぇんだからよ」


カチン
人のこと言えないくせに
腹の立つ御剣さんの足を踏みつけながら、私はビラを読む

『共同庭球に、入りませんか!?』

催促するように、大きくプリントされている
半ば、強制ではないか?

『未経験者大歓迎!
異性と共に、共同庭球で青春を謳歌しよう!』


これはあれだ
青春は謳歌する為にある方式だ
私の頭は直ぐにそれを察した
目の前で足を抱えている御剣さんには、冷たい視線をおくっておく


「…で、これを渡してどうしろと」

「入れ」

「…。あん?」

「共同庭球に、入れ」


さも当然のように言う御剣さん
この人の脳内は爆発しているのかと思ってしまうが
成績優秀なのを知っている故、何も言えない

それに、私は知っている
共同庭球は、ただの男女混合硬式テニスではないことを


「私は、さしてそこまで強くありません」

「そうだな、知っている」


また足を踏みたくなった私、耐えろ


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