いつでも一番星


コツコツ。

教室内に、黒板を叩く軽い音が響き渡る。

気がつくと、子守唄もどきの音読が終わっていた。

代わりに先生が黒板に、さっきまで読んでいた文章の論点をまとめていた。

夢心地だったクラスメートも、今は黙々と手を動かしている。

わたしも遅れを取らないように、慌てて黒板を見る。
するとナツくんの背中が、すっと丸まった。

……あ、まただ。

ナツくんは黒板の文字をノートに写し終えてシャーペンを置くと、必ず少しだけ背中をかがめる。

普段は絶対に曲げない姿勢を、この瞬間だけは変化させるんだ。

ナツくんと前後の席になった当初、この行動の意味がわからなかった。
単に疲れたから姿勢を崩しているのか、単なる気まぐれなのだと思っていたぐらいだし。

……でも、この数日で気づいたんだ。

ナツくんが、わたしのためにかがんでくれているんだってことに。


高身長のナツくんは、座高もそれなりに高い。
それに比べてナツくんの後ろに座るわたしは、身長も座高もうんと低い。

つまりわたしからすると、黒板との間に大きな壁があるようなもの。

たぶん、ナツくんは自分でそのことに気づいてるんだ。だからこそ、崩さないはずの姿勢を崩している。

先生が黒板の右側に書いたときは、左に身体を倒して。左側に書いたときには、右に身体をどける。

そこまでしてくれているのだから、きっと間違いない。

ナツくんは何も言わないけど、きっとわたしのために動いてくれている。わたし、一度も黒板が見えないだなんて口にしていないのに。

そのさりげない優しさが、たまらなく嬉しかった。


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